【インタビュー】大人が変われば子どもも変わる。助産師・瀧野ゆかりさんが包括的性教育を伝える理由

Risa

今回お話を聞いたのは、助産師・瀧野ゆかりさん。

地域の子育て支援をするかたわら、出張専門の助産師として包括的性教育についての講演を行うほか、オンラインで「助産師ママと性教育を語ろう会」を主催し、普段なかなか話題に上がりづらい“性のこと”について気軽に話す場づくりをされています。

そんな瀧野さんに、包括的性教育と接点を持ったきっかけや、包括的性教育を通して伝えたいことについてインタビューしました。

包括的性教育とは

「人権」をベースに、コミュニケーションやジェンダー・セクシュアリティ平等、差別や暴力、社会的・文化的要因、メディアリテラシーなど、性をめぐるさまざまな要素を含む教育のこと。これまでの性教育とは異なり、生殖や性的行動におけるリスク等にとどまらず、性を「権利」としてとらえる特徴がある。(参照:国際セクシュアリティ教育ガイダンス(改訂版))

今回お話を聞いたのはこの方!/

瀧野 ゆかりさん
助産師。産科クリニック、総合病院の一般病棟、産科病棟での勤務を経て、地域子育て支援に携わる。2020年に出張専門の助産院「ゆっこ助産院」を開業。現在は産後の家庭訪問や子育て支援センター等での講演を行うほか、オンラインで「性教育を語ろう会」を主催している。小6・2歳の二児を子育て中。

瀧野ゆかりさん
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ある女性の出産に立ち会い涙した経験から、助産師の道へ

ーーはじめに、瀧野さんご自身の現在のお仕事について教えてください。

瀧野さん(以下、瀧野):2020年に出張専門の助産院「ゆっこ助産院」を開業し、活動しています。

主に学生や乳幼児の保護者の方へ包括的性教育をテーマに講演をするほか、「助産師ママと性教育を語ろう会」を開催し、性に関することについて一緒に考え、参加者の方が気軽に質問できるような場を作っています。

また福島県助産師会に所属しており、妊産婦訪問や子育てサロン、市町村等でのベビーマッサージ講座を行うことも。子育て中の親子に関わることが多いです。

ーー瀧野さんの活動範囲は、多くの方が想像する助産師の仕事よりも幅が広いように思います。

瀧野:確かに、助産師というと病院で働いているイメージが強いかもしれません。助産師は英語で「midwife」というのですが、女性の人生の様々な場面に関わることができる仕事なんですよね。

出産に関わっていた病院勤務時代も楽しくやりがいを感じていたのですが、子育てを始めてからは仕事だけでなく子どもと一緒に過ごす時間も大切にしたい気持ちが強くなり、今現在は夜勤や時間外労働のない働きかたに落ちついています。

ーーそもそもなぜ助産師になろうと思ったのでしょうか。きっかけやエピソードがあれば教えてください。

瀧野:看護科のある高校に進学したんです。もともと勉強があまり好きではなかったし、勉強ができたわけでもなくて。将来役に立つ資格がとれたらいいなと思い、看護科がある学校に通うことにしました。

今思えば運が良かったのですが、高校3年の時に産科実習があって、たまたまある女性の出産の瞬間に立ち会わせてもらいました。実習先の病院が自宅から近かったこともあり、私だけ遅くまで残って立ち会わせてもらう感じで。

その日の帰り道、涙が止まらなかったんです。自転車で帰ったのですが、人目をはばからずに泣いた記憶があります。

どうして涙が止まらなかったのかは上手く言葉で表現できないのですが、出産する女性の強さのようなものを感じたからかもしれません。とにかく心が動かされたんです。

その方はお産がなかなか進まなかったのですが、彼女の出産を待つ間、私は他の学生と「男の子が生まれるかな、女の子が生まれるかな」と賭けをしていました。結局は女の子が産まれたと思うのですが、出産直後で疲れているはずなのに、その方は笑顔で「女の子だったね。(賭けに)勝ったね!」私のことを気遣ってくれて。

今思い返しても涙が出るほど、母になった女性の偉大さに心を動かされたんです。この経験がなかったら、助産師になろうと思わなかったかもしれません。

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「人を尊重する」包括的性教育は腑に落ちた

ーー瀧野さんは今、「助産師ママと性教育を語ろう会」を主催されており、性に関して気軽に話すことができる場作りをされていますよね。そもそも性教育に関心を抱いたきっかけはあったのですか。

瀧野:「私って親に大切にされているのかな」と、ふと感じたことが性教育に興味を持ったきっかけだった気がします。

ちょうど助産学校に在学中か卒業した頃で、当時確か20代前半だったと思います。その頃は10代の人工妊娠中絶の件数が多かったり、児童虐待防止法が施行されたりして。

そんな社会背景から、女性や子どもの人権について考える機会が多かったように思います。

ーーご両親との関係のどのような点が、瀧野さんに「自分は親に大切にされているのだろうか」と感じさせるきっかけになったのでしょう。

瀧野:父と母にはここまで育ててもらい感謝しているのですが、母のことをあまり好きになれなくて。

私はたばこが苦手なのですが、母は私がたばこの煙があまり好きではないことを知りながらも私の近くでたばこを吸ったり。父に対する愚痴も聞かされました。

そんな母の私との関わり方から「自分は大切にされていないのでは」と感じたんです。今思えばきっと母もストレスを感じていて、娘である私に話を聞いてほしかったのかもしれませんが、当時の私は受け止められませんでした。

でも母との関係に対して疑問を感じたからこそ、今私は性教育をテーマに伝える活動をしているのだと思います。

性教育に関する発信も、今になってやっと始めることができました。

ーーお母さまとの関係で感じた疑問や違和感は、包括的性教育の考え方とリンクしましたか。

瀧野:昨年、包括的性教育がテーマの研修を受講したのですが、「人権」がベースになっていて、スーッと入ってくるし、納得できたんです。触れてはいけないような雰囲気を感じる昔ながらの日本の性教育とは違う。自分が納得できたから人にも伝えたいし、自信を持って伝えられるかもしれないと思いました。

包括的性教育を学んだら、私自身、母に何かを求めていたのだということに気がついて。私のことを認めてほしいという気持ちがあったし、私を大切にしているということを、もっと言葉や行動で表現してほしかった。

自分自身が子どもの頃に感じた経験をもとに、助産師として伝えられることを伝えられたらと思っています。

ーー瀧野さんは包括的性教育をテーマに中学生やその保護者の方向けにお話されていますが、ご自身のお子さんとの関わりで心がけていることはありますか。

瀧野:私も完璧な人間ではないのでつい感情的になってしまうこともありますが、なるべく子どもと対等に接するように心がけています。

子どもと比べると大人は体が大きいですよね。体の大小の差があると、どうしても体の大きい人の声が大きく、威圧的になりがちです。

子どもは大人との関わりの中で人間関係を学んでいく。大人は子どもの言動につい口出ししてしまいがちですが、大人の言い分ばかりを伝えるのではなく、子どもの気持ちも大切にしたいと思っています。

逆に、子どもだけではなく大人も自分自身の気持ちを伝えること、嫌なことに対して嫌という気持ちを伝えることは大事ですよね。

ーー大人が同じ目線で接してくれれば、子ども自身の自尊心や自己肯定感も育まれそうです。

瀧野:自分の選択を大人に尊重してもらい、肯定してもらえると、子どもは自分の選択が間違ってなかったと思えるのではないでしょうか。

失敗しても成功しても受容してくれる親がいると、自分自身のことも受容できる。そうなると、生き方って変わってきますよね。

人から大切にしてもらわないと、人を大切にする方法がわからないと思います。幼少期の頃から日常的に親の暴力を受けていたら、暴力が愛情表現と認識してしまう可能性は大いにあります。

しつけもしかりで、「しつけ」に「お」をつけると「押し付け」になる。大人は「しつけ」と認識していても、受けとり手が「押し付けられている」と感じてしまってはどうかと思います。

子どもだけじゃない。大人も性教育を学べば人生の選択肢が広がる

ーー小学生や中学生が対象だと思われがちな性教育ですが、生涯を通じて自分自身を振り返るきっかけを与えてくれそうです。

瀧野:本当ですよね。子どもはスポンジのように多くのことを柔軟に吸収できますが、ある程度の人生経験を積んだ大人が価値観を変えるのは難しい気がします。

大人が変われば、子どもも変わるかもしれません。

日本の性教育の学習指導要領には「はどめ規定」といって、人の受精に至るまでの過程は取り扱わないようにする決まりがありますが、子どもが疑問に思うことに答えたり自身のルーツを伝えるのは悪いことではないと思うんです。

子どもにも知る権利があるし、知ることで彼らの選択肢を増やすことにつながるのではと思っています。

ーーそう考えると、大人の姿勢って大事ですね。

瀧野:そうですね。例えば子どもが性器に関する相談をしたとして、大人が「恥ずかしいから聞かないの」「そんなこと聞くんじゃない」と否定的な態度をとると、それ以降子どもは相談しにくくなるかもしれません

もちろんプライベートな部分まではオープンにしなくてもいいのですが、悩みを受け止めてくれる大人がいれば、子どもはひとりで悩みを抱え込まなくてもよくなるし、望まない妊娠だって減るのではないかと思います。

よく「何か心配なことがあったり、悩んだりしたことがあったら、気軽に相談ができる大人を3人くらい持っておくといいよ」と伝えることがあります。

親の考えだけが正しいのではなく、いろいろな考え方があるよ、と。

自分や親が持っていない考え方に触れると、選択肢も増えます。自分らしく生きるために、多くのことを知り選択を重ねることは性教育が目指すところだと思います。

子どもだけではなく、子育てをしている大人も相談相手がひとりしかいないよりも3人くらいいた方が、自分らしい子育てができるのではないでしょうか。

もし子どもが性自認や性的指向で悩んだとしても、真剣に向き合ってくれる大人がいれば、その子の生きやすさはきっと違う。

性教育については私もまだ勉強中ですし、捉え方は人それぞれかと思いますが、学んだことを自分の中だけにとどめるのではなく、ひとりでも多くの人に知ってもらうきっかけを作ることができたら嬉しいです。

今、自分にできることを無理なく続けたい

ーー包括的性教育という言葉自体は耳にしたことがあるけれど、まだ詳しく知らないという方も多いと思います。瀧野さんの活動から認知が広がってほしいですね。

瀧野:そうですね。もっと多くの方に知ってもらえたら嬉しいです。

今はベビーマッサージや子育て講座などのご縁で、性教育についてのお話をする機会をいただくことができています。自分から売り込むのは得意ではないので、ひとつひとつのご縁を大切にしたいと思います。

現在、小学6年生と2歳の子どもを育てているのですが、子どもたちの成長に伴って仕事の幅を広げ、私自身も助産師として成長していきたいです。

ーー瀧野さんの「性教育を語ろう会」の続編を聞けたようでうれしいです。

瀧野:ありがとうございます。

「もっと聞きたい!」と思ってもらえるような楽しい性教育講座ができるよう、これからもブラッシュアップしていきたいです。

いずれは子どもたちやその保護者の方のみならず、いずれは保育・学校関係の方へと伝える対象の幅を広げられたら嬉しいです。

ーーありがとうございました!

<聞き手・文・写真=risa>

関連リンク
ゆっこ助産院 公式Instagram:@yukko.jyosanin

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risa
risa
デザイナー・ブロガー
会社員生活を経て、フリーランスでデザインしたり文章を書いたりしています。「ビジネスやサービスの魅力をつたえる」「視覚的にわかりやすく情報整理する」のが得意。最近はインタビューも。コーヒー、読書、写真、目的地のない散歩が好き。夫と娘と3人暮らし。
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